日本時間1月23日のカンファレンス チャンピオンシップはペイトリオッツがレイブンズに23-20で勝ち、めでたくスーパーボウルに進出します。日本のプロ野球で喩えれば、パ・リーグのクライマックスシリーズを勝ち抜いて日本シリーズに出るようなものです。しかし、スーパーボウルは1発勝負。日本時間2月6日のNYジャイアンツとの1試合で全てが決します。この試合にかかる重みは相当なものと推察できます。
それで本論なのですが...NFL(アメリカンフットボールの米国プロリーグ)の中継を観ていて、”クィックネス”の重要性を教わったということです。
スポーツでクィックネス(素早さ)が大切なのは当然なのですが、今シーズン中盤くらいまでは、NFLのQB(攻撃の司令塔)のトレンドは、クィックネスよりもモビリティー(移動性)にあるように考えていました。
この動画(リンクはこちら)の最初のプレーなのですが、ブロンコスの背番号15番のQBティーボウは相手守備陣のタックルを振り切り、密集地帯をかいくぐって、半ば無理やりにエンドゾーンまでボールを運び、タッチダウンを奪います。このプレーで特筆されるのが、QBでありながらボールを長い距離持って運べる、ティーボウのモビリティーです。相手ディフェンダーのタックルを振り切って走るのには、ステップワークや上半身の捻りなどで卓越したクィックネスが求められるのは当然ですが、ティーボウのプレーでは、それ以上に相手のぶつかりを怖れず、果敢に走り切る勇敢さが、彼のモビリティーを支えているように感じます。
同じように、ボールを持ったらエンドゾーンへ向かって突っ走るQBとしては、イーグルスのビックが有名です。彼は前の所属チームであるファルコンズの時代から、圧倒的なモビリティーを発揮し、相手チームを悩ましていました。この動画(リンクはこちら)は、昨シーズンのビックの活躍ですが、ボールをエンドゾーンへと持って走るモビリティー(移動能力)だけでなく、超人的なクィックネスも兼ね備えていることを感じてもらえると思います。しかしながら、今シーズンのイーグルスは、期待されながらも8勝8敗の五分の成績に終わり、プレーオフに進出できませんでした。ビックが怪我で欠場した試合が多かったこともあるのですが、その他にも要因があると、私は考えています。
それは、身体機能で示す以外のクィックネスが、NFLのQBには求められているのではないかということです。
この動画(リンクはこちら)は、セインツのQBのブリーズがパスプレーでシーズン新記録を達成した試合のものです。1984年以来の記録更新ですので、この試合でのブリーズのプレッシャーは大きかったと想像します。それにも負けずに勝利と記録の両方をもぎ取るハートの強さがドリュー・ブリーズという選手の魅力だと、私は感じています。それだけではなく、相手ディフェンス選手達が猛然と迫り来るまでの、ほんのわずかな時間に、パスをキャッチできそうな味方選手を見つけ出し、正確にパスを送る冷静さも、パス攻撃に秀でたQBに共通する能力のはずです。この、一瞬で的確な攻撃(パスの受け手を探して正確にパスする)を為し得るのは、状況判断や投球動作というベーシックな部分で、卓越したクィックネスが備わっているのだと思うのです。相手の突進をかわすうちにバランスを崩したとしても、一瞬で姿勢を立て直し、正確にボールを投げるためにも、クィックネスはものを言います。それは、ビックのような華麗さ、ティーボウのような勇敢さほど見栄えはしませんが、アスリートにとってなくてはならない能力だと考えるのです。
私の大好きなペイトリオッツのQBのブレイディも、そういうベーシックな部分でのクィックネスに秀でている選手だと思っています。この動画(リンクはこちら)の2分25秒からのプレーを特に見てほしいです。ブレイディ(青のジャージの12番)が突進してくる敵ディフェンダーを何度もかわし、タッチダウンパスを投げます。ディフェンダーをかわす度に投球フォームに姿勢を直す動作のクィックネスは、特筆すべきものがあると思うのです。また、3分10秒のプレーも、味方(このプレーではD.ブランチ)がいるはずの場所へ間髪入れずに投げるクィックネスには、目を見張るものがあります。
昨シーズンは、この動画の対戦相手であるジェッツに苦杯をなめてペイトリオッツはシーズンを終えました。その時には、トム・ブレイディの時代は終わってしまうのではないかと感じたのです。ブレイディは決して、走れるQBではありません。動画でもわかるように、相手のタックルをかわしたり、紙一重の差でパスを素早く投げてしまう能力には優れていますが、ティーボウやビックのように、自分の足でボールを運んでしまうタイプの選手ではありません。砲台のように、味方に向けてボールを発射するパスプレーで勝負するタイプのQBです。しかしそれでは、パスの受け手を守備側がカバーできれば、攻撃が封じられる可能性もあります。あるいは、守備選手が猛烈なラッシュをかけてブレイディに襲いかかり、パスを投げる前にタックルしてしまえるかもしれません。やはり、QBも走れなければ(=モビリティーを発揮できなければ)勝てない時代になりつつあるのではないかと、昨シーズンの終わりには考えていたのです。
ティーボウは今年になってブレークした選手ですが、彼の活躍は、私の考えが正しかったことを示しているのかもしれません。また、今シーズンのポストシーズンでも、勝負どころで、意表をついたQBのランニングプレーが出ることを考えても、やはり走れなければいけないのかもしれません。それでも、最初に記したとおり、ブレイディ率いるペイトリオッツはスーパーボウル進出まで勝ち進んできました。やはり、彼の時代は終わっていなかったのです。現在のペイトリオッツの強さは、ブレイディが走らなくても強力に活路を開いてくれる選手達(もし、2月6日に興味のある人は、ペイトリオッツの87番を覚えて下さい)がいることが大きいと思います。でも、その大前提として、パスの出し手であるブレイディの、地味なクィックネス(パスを出す前の細かいステップ、姿勢が崩れてもすぐに正しいフォームへ立て直せる復元力)があることに気が付きました。
このアドバンテージは、大人のフィギュアスケートにも通じると思います。
例えば、スケーティングの際に、動足(=フリーレッグ)で氷を押して推進力を得ますが、押し終わったフリーレッグをすぐに軸足(=スケーティングレッグ)に戻すこと。重心が速やかに軸側に戻れば推力の減衰を押さえられますので、押し終わったフリーレッグを素早く戻すことは、スケーティングの伸びにつながるはずです。とても地味なことですが、そういう意識とスキル(氷上滑走で素早い動作をすることは、思うほどに簡単ではないです)は大切だと考えております。このような滑走時の押し終わりの足を素早く戻すというクィックネスは、クロスストロークでも同様です。フリーレッグを綺麗に伸ばすまで押し切り、そこまでいったらすぐにスケーティングレッグに戻すことは、基本のストロークでもクロスでも、あるいはフォアでもバックでも変わらないはずです。そして、そのためにはスケーティングレッグが基本のストロークではアウトエッジに、クロスストロークではインエッジに乗っていなければいけないと思います。
スケーティングそのものを見るのであれば、滑走速度や自在な動作は、モビリティー(移動性)の範疇に入る気がします。こういうスキルは大人でも上達が可能ですので、私は、大人のフィギュアスケートではクィックネスよりもモビリティーを追求すべきと考えておりました。強引な引きあいを許してもらえるのなら、高橋大輔のステップシークエンスや浅田真央のトリプルアクセルではなく、鈴木明子のスケーティングを、大人は手本にすべきという感じです。でも、伸びのある美しいスケーティングの前提には、フリーレッグの処理の巧さがあるわけで、要するにクィックにフリーレッグを動作できなければ、スケーティングにおけるモビリティーが発揮できないというのが、このエントリーで一番言いたいことです。
ジャンプについて考えても、踏み切りの姿勢に、いかに素早く、正確になれるかが成否を分けるのかもしれません。フットボールと違い、フィギュアスケートにはプレーを邪魔する敵側の選手は存在しません。しかし、陸上のスポーツとは違い、氷上という摩擦がとても小さい世界で、高速移動をしなければなりません。そうすると、慣性(運動を持続しようとする性質)が非常にやっかいになります。方向転回をする時、回転をする時などに、したい運動を邪魔するように力が働いてしまい、バランスを崩すことはよくあると思います。なんとなく思うのですが、バスケットボールやサッカーあるいはアメフトの選手が敵選手と競り合うように、私達も慣性という見えない敵と戦い、それらに打ち勝つように頑張る必要があるのではないでしょうか?もちろん、単に力で抑えるだけでなく、合理的な動作で無駄な慣性を生じさせないことも、その頑張りの一つですが。
それで、ジャンプについてなのですが、入りのモホークやスリーターンの動作を素早く、正確にすることで、余分な慣性を抑えることができるはずです。踏み切りでの失敗は、この慣性のせいでエッジに体重を十分に乗せることができなかったり、軸が曲がってしまうこともあると思います。ですので、踏み切り姿勢を素早く正確にとれる(ちょうど、敵ディフェンダーが迫ってきても素早くきれいな投球フォームに入れるブレイディのように)クィックネスは大事なのだと考えるのです。
また、プログラム全体で考えると、動作が機敏で無駄がなければ、時間的なゆとりが生まれます。私は”カルメン前奏曲”のプログラムを先生から頂いていますが、超...速いテンポで音楽が進みます。正直、なんでこんなに速い曲を選んで下さったのかと、先生に尋ねたい気分です。自分で選ぶのだったら、絶対に無謀だと却下すると思います。でも、速いと思うのは、それだけ自分の動作がのろいわけで、機敏に動ければゆとりが生まれるわけです。ならば、どうすれば機敏に動けるか?ということで、それには反復練習が欠かせないということになります。大人のスキルには限りはあると思いますし、サイズ(身長と体重)はフィギュアスケートにおいてはハンデになりますので、どこまでできるようになるのかは、わかりません。ただ、ビデオを見返したり、練習を繰り返したりしていると、結構余分な動作のために時間をとられている部分もあるなと感じるのです。この動作は、例えば開かなくて良いタイミングで手を開いてしまったり、上半身がグラグラしたりするというもので、重心移動があいまいなために起こるのだと思います。先ほどのスケーティング時のクィックネスにも通じるのですが、重心をどこに移すかがわかることで、氷上での素早い動作に近付けると考えております。そのためにも、適切な重心位置を覚える練習が求められるのですが...。こういうクィックネスを磨いて動作が機敏になれば、もう少しゆとりを感じながらプログラムができるようになるかなと、希望を持っております。
クィックネスを増すためのトレーニングは、特別なことは考えておりませんが、普段のスケーティング練習のそれぞれのメニューに、速めの動作でやってみるのを加えることにしました。例えば、アウトサイドロールの際に、以前は大きな半円を描くように5周滑るだけでしたが、その中の1周は細かく、ほとんどストレートラインを描くようにチョコチョコと滑るようにしました。同じようなのは、両足でのスネークでもできます。片足スネークはエッジチェンジするまでの間隔を自在にコトロールできるほどのスキルはないので、クィックネスもへったくれもないという状況です。同様に、インサイドロールも重心の乗り位置の確認と上半身のボディコントロール(グラつかないこと)が主眼になっていますので、細かい動作を練習する段階ではないです。でも、いずれは挑戦した方が良いだろうなとも考えております。
大人がフィギュアスケートに挑戦する場合、高橋大輔のような華麗なステップに近づくのは、ちょっと無理があると思います。でも、重心移動の素早さと正確さ、エッジコントロールの巧みさといった、「地味なクィックネス」は向上すると思いますし、そういうスキルがアスリートの充実度につながるのではないかと思うのです。もちろん、氷上という極限に近い世界で、難易度の高い動作に挑戦するのがフィギュアスケートの素晴らしさです。でも、そういう動作を可能にしているのも、動作を正確に、素早くできるスキルではないかと考えております。そういうスキルを獲得することは、おそらくは氷上だけでなく、オフ・アイスでも宝になるのではないかなとも、期待しております。
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