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2008年12月14日 (日)

安藤選手の新プログラムの感想

昨日のグランプリファイナルは、浅田真央選手とキム・ヨナ選手の2強対決の様相を示した。残念ながら、中野友加里選手は二人に肉迫することができず、コストナーに表彰台を譲ってしまった。

ジゼルからサンサーンスの交響曲第3番に曲を変えた安藤選手は6位、安藤選手からジゼルを譲られた形になった中野選手も5位と、それぞれに事情を抱えつつも、ジゼル対決の回避という策は、それほど芳しい成果を得ることなく終わってしまった。

安藤選手の演技を観て、私はあまり良い演技ではないと感じた。その理由は、ある程度わかっている。サンサーンスの音楽は、フィギュアでは難しいからだと思う。

特にこの交響曲第3番は、陰と陽の対比のある曲である。今回のプログラムで使われている、第1楽章の前半と第2楽章の前半は、共に陰の部分である。弦楽器の細かいパッセージが裏地のようになり、管や弦楽器が悲しげに主旋律を奏でる。もう少し詳しく言うと、ゆったりとしたピチカートや金管楽器のテンポの進行に、細かくリズムが刻まれ、その上をハーモニーと旋律が乗るという多重構造になっている。

ゆったりとしたテンポなので、各エレメンツの入りは、それほど急ぐ必要はない。これが、安藤選手にとっては大きな課題になるだろう。真央選手のSPもそうだが、ゆったりしたオーケストラの重層的な響きを一人で演技するのは、至難の業なのだ。真央選手は、見事にその課題に答えを出した。ならば、安藤選手は...?

グランプリファイナルの順位結果表(SPFS)を見ると、FSでの安藤・中野両選手のPCSの低さが目を引く。SPでは、上位2選手を除けば、他の4選手同士でPCSにはあまり差はない。ところが、FSでは上位2名以外の中でも、日本人の二人の選手はPCSが低く出ている。特に、TR(要素のつなぎ)とIN(曲の解釈)で差が著しい。中野選手については論を別に譲りたい。このエントリーでは、安藤選手の新しいプログラムについて考えたいのだが、先ほども記した、ゆったりとしたテンポでの多重構造の響きというのが、TRの低さにつながっていると私は考えている。

テンポに乗ってエレメンツを設けるとしたら、ゆっくりペースならばエレメンツに入るタイミングはとりやすい。だからジャンプも跳びやすい。しかし、そこに工夫がなければ、エレメンツに入るまでの時間で、間延びした印象を与えてしまうだろう。今回、安藤選手は、ジャンプの回転不足を除けば、各エレメンツをソツなくこなしていた。大きなミスをせずに演技を終えた実感が、演技後の自らの拍手に現れていたのだろう。しかし、TRは低かった。エレメンツを無難にこなせば評価が高いという時代ではないということだと考える。テンポがゆっくりで間延びしやすく、しかも間延びした隙間から、絶え間なく弦楽器の細かいパッセージが漏れてきて工夫の少なさを咎めてしまう。こういう苦しい状況に、安藤選手はいたのではないだろうか?

もうひとつ、IE(曲の解釈)だが、こちらは壊滅的であった。プログラムが出来上がって時間がたっていないということもあるのだろうが、曲想をとらえていないというよりも、音の強弱やアクセントの所在すら把握していないようだ。たとえば、最初のジャンプ。ここでは4回転サルコウを決めた後も、少しづつ増して行く緊張感に神経を使うべきなのに、ジャンプを降りて安堵したのか、その後のテンションを全く感じなかった。また、3ルッツ+2ループ+2ループの箇所も、クレッシェンドが終わりきる前にジャンプが終了してしまい、その後の緊張の持続ができずにいる。そして、クライマックスのはずのストレートラインでは、入る前の待機の振付時間が長く、曲の尺が上手く合わないための帳尻あわせという印象を抱いた。

全般を通して言えるのは、波が寄せては引いていくのを繰り返しながら、少しずつ潮が満ちていくように、曲想が小さなクレッシェンドを繰り返しながら緊張を高めていくという雰囲気を、安藤選手は表現しきれていないということである。このあたりで、IEが厳しくとられているのではないだろうか?また、ストレートラインは、逆に緊張の峠を越えた後もステップが続くのだが、そのあたりの緩急が考慮されていない。そして、いきなり編集がされて、交響曲の締めくくりの部分に入り、演技も終わってしまう。

これでは、最期に向けて、演技を盛り上げようがないのではないか?

一言でいえば、曲と演技とがバラバラなのだ。ゆっくりのテンポなので、ジャンプは跳びやすいかもしれない。でも、エレメンツが終わるたびに腕をダランと下げているなら、やはり間延びしているとの印象は拭い去れない。せっかく、曲は少しずつ盛り上がっているのに、それを演技者が掴んでいないところに悲しさがある。

ジャンプの回転不足は、なんとかなるかもしれない。でも、到底、世界で戦うための曲ではないと思うのだ。

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コメント

こんばんは。

ねくすとさんの安藤さんの批評を興味深く読ませていただきました。私も彼女のジゼルのプログラムが好きだっただけに、今回のプログラム変更は複雑な気持ちで受け止めました。

安藤さんの今回の演技、トータルパッケージとして、完成度の低いものに終わったと思います。むしろPCSはあの演技にしては高い評価を貰ったとさえ、思っています。

彼女は音楽を表現しようという気持ちが欠落しています。音楽を表現できる才能・潜在能力をはトップ選手の中でもひけをとらないものを持っているだけに残念なことです。私は現役選手の中では、安藤さんが一番、好きなのかもしれません。それだけに残念です。

はるるさん、こんばんは。

親父さんのところでは、お世話になっています。
コメントをありがとうございました。

>>むしろPCSはあの演技にしては高い評価を貰ったとさえ、思っています。

実は、私もそう感じています。
どちらかというと、旧採点向きの演技だったと思います。4回転を跳ぶことにエネルギーの多くを費やした結果なのかもしれませんが...。

GPFのフリーの演技では、真央選手は、3Aをことごとく成功させましたが、ランディングからすぐに次の演技に移っていました。アクセルを降りたこともすごいですが、間断なく次へとつなげようとする真央選手の顔つきに、私は鳥肌が立ちます。

そこは、申し訳ないですが、ジャンプの度に腕を下ろしてしまっていた安藤選手との違いだと思いますし、多くの選手が学ぶべき真央選手の凄みだと考えています。ただ、安藤選手も、昨年の全日本や07年の東京ワールドなど、ここ一番で集中した時の凄さはあると思います。「本当に、この曲でいいの?」とは思いますが、もしかしたら、私のチンケな予想をひっくり返す演技が全日本で観られるかもしれません。

私は、鈴木明子選手の晴れの姿を観たいので、安藤選手が頑張ることにはすごく複雑なのですが、やはり、高レベルな戦いの方が良いですよね...(でも、明子選手に枠を勝ち取ってほしいです)。

>>彼女は音楽を表現しようという気持ちが欠落しています。音楽を表現できる才能・潜在能力をはトップ選手の中でもひけをとらないものを持っているだけに残念なことです。

彼女は、右脳で踊るといいますか、理屈よりも感性で動くタイプだと思います。そこが魅力なのかもしれません。ですので、色々考えすぎると悩んでしまう。それよりも、無心に踊った方が力を発揮できると思います。

おそらく、GPFでのサンサーンスを賞賛する人達も、そういう彼女のひたむきさが今回出ていたのを感じたのではないでしょうか?それは、私も評価したいです。でも、今回は演技と曲とがあまりに解離しすぎていました。跳ぶために曲を踏み台にしている感じを受けたので、私は好きになれなかったのです。

あの曲の中から、何かを感じられたら、もっと違った演技になるかもしれません。そのためにも、エレメンツ間のつなぎをモロゾフに考えてほしいです。あと、音楽が暗いのですが...滑り込んでいるうちに曲が嫌いにならないかと心配していますが、大丈夫ですよね?

おはようございます。
「親父さん」のブログでお世話になったkodeです。
再度、御礼申し上げます。
やはり、ねくすとさんはスケーターでもあるのですね。
自己紹介させていただきます。当方は、(年齢はいっていますが)「真央選手世代」?のニワカファンです。スケート・リンクには若い頃一度行って、懲り懲りしました(笑)。地方に住んでいるので、生で見る機会はまだつくれないでいます。一度…。
歴史を遡ってフィギュア動画を見て、好きなスケーターは伊藤みどりさん、スルツカヤさん(選手?)、そして真央選手です。バレエ・クラシック音楽のファン歴の方は少し長いです。真央選手がモーツアルトのすこぶる明るい長調の曲(クラリネット五重奏曲ならばどの楽章でも!)を滑ってくれることを切望していますが、フィギュアにモーツアルトは向かないのでしょうか?この程度のファンです(冷汗)。
またお邪魔させていただきますが、フィギュアの醍醐味についていろいろお教えください。よろしくお願いいたします。

kodeさん、こんばんは。わざわざ、ありがとうございます。
ご丁寧なお礼と自己紹介も痛み入ります。

私も、フィギュアをきちんと観始めたのは2005年以降ですので、フィギュア歴はそれほど変わらないと思います。よろしく、お願いします。

>>やはり、ねくすとさんはスケーターでもあるのですね。

かなり年齢はいってますが、2005年頃から観るのと同時に滑り始めました。私の場合は、小さい頃に親に連れられて滑った経験がありましたので、チョコチョコとは最初から滑れました。

最近は、私のような中年でも滑っている人を結構みかけます。ちょっとした、大人のフィギュアスケートのブームのようです。実は、5年くらい前までは、バレエも習っていた(笑)ので、それでフロアのダンスにもある程度通じています。あくまでも、素人のレベルですが...。


>>真央選手がモーツアルトのすこぶる明るい長調の曲(クラリネット五重奏曲ならばどの楽章でも!)を滑ってくれることを切望していますが、フィギュアにモーツアルトは向かないのでしょうか?

モーツァルトにフィギュアですか...。ジュピターとかは、ありそうな気がするのですが...。あと、”アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク”は、ポピュラー調にアレンジしたものを子供達が使うことがあったと思います。クラリネット5重奏は、すみません、私自身が曲を聞いたことがないです。お勧めの奏者を教えていただけたら、聞いてみたいのですが...。真央選手に、明るいモーツァルトは、きっとぴったりだと思います。

クラリネットの協奏曲は、最近どこかで聞いた覚えがあるのですが...リンクで誰かが使っていたような...う~ん、思い出せません。

そういえば、西日本大会のレポートで、中村愛音選手のSPをモーツアルトのレクイエムと、間違って書いていました。「怒りの日」ですが、ヴェルディのレクイエムの方です。直しておきます。

もう少しクラシックの話なのですが、安藤選手のサンサーンスを聞いていて思ったのですが、彼女はバイオリン協奏曲のように、旋律の担い手がはっきりしたクラシック曲の方が気持ちを込めやすいと思います。ですので、ヴァネッサ・メイの曲か、ラロのスペイン交響曲とかはどうかな?と思いました。

>>またお邪魔させていただきますが、フィギュアの醍醐味についていろいろお教えください。よろしくお願いいたします。

こちらこそ、どうかよろしくお願いします。
フィギュアの醍醐味といっても、それこそ観る方々がそれぞれに感じるものだと思いますが、意見のやり取りができたら最高だと思います。

その意味で...親父さんのところでは、失敗しました。テレビ視聴の感想ということで、思わず口が先に出てしまったのはまずかったです。あと、今朝の書き込みを咎められたのは、流れから言って当然かもしれません。
残念ですが、出入りできなくなってしまいました。すみません。

もし、嫌でなければ、こちらの方も時々のぞいて下さい。
また、お願いします。

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