軸をつくること
軸について考えるエントリーの3つ目です。フィギュアスケートにおいては「軸」はとても大切な概念であり、私が陸上で行う練習の大半は軸のためと言っても過言ではありません。ですので、しつこくなりそうですが...エントリーを重ねていきます。
今、頭で考えているのは...
1.軸をつくる
2.軸をまとめる
3.軸をとる
の3ステップです。
1.「軸をつくる」ことは、このエントリーで考えていきます。2.の「軸をまとめる」というのは、体にある運動の軸をなるべく細くした方が運動(主に回転ですが)もタイトになるようです。そのために何を意識したら良いのかを考えるつもりです。ただ、このことについては、私にはわからないことが多く、手探りの状態なので上手に文章にまとめられるかが不安です。3.の「軸をとる」というのは、普段は体の中心を縦に通っている軸線が、運動の性質、例えば片足バランスとか、空中での回転(右利きの人は右軸をとります)とかでは、軸の位置を意識して変える必要があるようです。そういったことを考えてみれば、自分の技術向上にも役立つかなと思っております。
それで、「軸」を考えるうえで、ステップ1.となる「軸をつくる」ですが...(以下、~である調で記します)。
基本的に、人には運動するための軸は備わっていると思う。二本の脚で立位をとるためには、重い頭を高い位置で支えられるバランスが必要なのだが、日常の中では何気なくできているようだ。それは、立位をとった時にバランスをとるための軸が、既に形成されているからとも言える。歩くことを覚え始めた子供はよく転ぶが、これはもちろん、体の骨や筋肉が未発達なためでもある。でもそれだけではなく、立った時にバランスをとることを十分習得していないためでもあると思う。バランスをとる働きは、小脳という頭の後ろの下にある脳が役割を担っている。なので、脳梗塞などの病気で小脳の機能が障害されると、筋力はあって麻痺ではないのだが体のバランスがとりにくいという障害が起こることがある。体の軸が失われる現象と私は考えている。
実際、リハビリテーションの現場では本当に多くのことを教えていただける。単に筋力を増すだけではなく、養った筋肉をいかに上手に使うか、そういうことの大切さを教えていただいている気持ちになる。普段何気なく行っていることが、いかに絶妙な仕組みで作用しているか、日常の大切さを学んでいると言っても良いと思う。だから強調させてほしいのだが、誰にでも「軸」はある。あるいは、病気でそれを失った方々は、再び軸をつくるためにリハビリをしていると言っても間違いではないと思う。
もちろん、歩行するためにも体に軸がなければできない。頭から体幹に至る中央に軸線があり、それを中心に肩や骨盤を前後に小さく振りながら歩行しているイメージだ。この前後のスィングをせずに脚だけを振り出して前に進もうとすると、まるでロボットの歩行のようにぎこちなくなる。(最近はとても滑らかに歩くロボットもあるようなので、ぎこちない歩行の喩えにするのも適切でないのかもしれないが...。)ここからも、普段の生活でも無意識のうちに体は軸を保っていることがわかってもらえると思う。
もう一つの例だが、私達がトイレに入る時、よほど広くなければドアをくぐって180度方向転換をしなければドアを閉めたりしゃがんだりできないと思う。ターンやスピンの練習の時、「回転運動は普段にはない動き」と先生から教わるし、私も仲間に言ってしまうことがある。もちろん、720度(360度を2回転)とか1080度(同じく3回転)などといった多回転運動はまず考えられない。でも、90度や180度のターンは椅子に座って机に向かうとか、車の乗り降り、あるいは方向転換などでよくあると思う。360度にしても、来た道を引き返そうと思ったけどやっぱり止めた、などといった状況ではあり得る。こうした日常生活でのターン(たいがいは両足を交互に使ってゆっくり動作するが)も、もちろん体に軸が備わっていなければ不可能である。
そうすると、日常生活で無意識に使っている体の軸と、フィギュアスケートで養わなければいけない運動軸の違いなのだが...。基本的には日常生活での軸の応用だと私は感じている。ただ、”意識して使えるか”が問題になるし、軸をまとめていく必要もあると思う。例えて言えば、日常の歩行とファッションモデルのウォーキングは、軸を使っての歩行という共通点はあるが、軸の使い方が全く異なるというのと同じだと思う。何気なく歩くのと、魅せる歩き方では、同じような運動でも質が異なるのだ。この相違は、軸への意識の違いでもあるし、いかにコンパクトに運動軸をまとめているかの違いでもあると思う。
前者の”軸への意識”の大切さについては、以前のエントリーでしつこく記したと思う。また、後者の”軸をまとめる”については、別エントリーで考えるつもりだ。その中間にある、「軸をつくる=既にある軸を意識できるようになる」ためにどうするか?をもう少し考えたい。
普段の生活でも備わっているはずの体の軸を、何気なくではなく意識して使えるためには、どんなトレーニングが必要なのか...?最近の美容関係のテーマでもあるような気がする。少し前に、体の内なる筋肉を意識するためのエクササイズをNHKで紹介していたし、ピラティスもそういう目的ではないかと思う(しっかり勉強した訳ではないが)。いわゆるインナーマッスル(関節や体幹の内側の筋肉)を意識して使うことが軸の意識にもつながると思う。もちろん、それらの筋力の増強は軸の強化にもつながるだろう。具体的なエクササイズについては、もう沢山の情報があるのでそちらに譲りたいのだが、少しだけ記す。ただ、エクササイズの適否には個人差が大きいと思うので、回数やおもりの重量などの記述は省かせてほしい。あくまでも、「こんなエクサイズはどうでしょうか?」という程度の話であり、気になった方法があれば専門のサイトで更なる検討をしていただけたらと思うのだ。
私は、大腿骨から骨盤と腰椎をつなぐ腸腰筋のエクササイズには数年前に通信販売で買った腹筋エクササイズの器具を使っている。名前を忘れたのでググッてみたが、現在は”ABスリマー”という商品名で販売しているようだ。これを、体を起こすのと同時に両膝を体幹の方へ引き寄せるように挙げれば、多少は効果があるのではないかと期待している。ただ、この運動は腹直筋など他の筋肉も関わってくるし、インナーマッスルの名の通り表から見ても筋肉の発達は確認できないので、あまり強くはお勧めできない。気長にやっていれば、何かいいことがあるんじゃないか、くらいの気持ちでやっている。
中臀部筋は骨盤の位置を安定させるためには非常に重要だと考えている。これは、理学療法士さんに”フロア ヒップアブダクション”という方法を教えていただいた。少し調べれば、「ああ、このポーズか」とすぐに理解していただけると思う。
腹筋については、表層にある腹直筋も大事だと思うのだが、インナーマッスルとして腹横筋や腹斜筋への意識が骨盤や腰椎の安定のためには欠かせないと思う。このためのエクササイズは、どちらかというと、ピラティスなどに取り入れられているのではないだろうか?私は、バレエの先生に教えていただいた方法で、深い呼吸を繰り返しながら背骨をまっすぐの状態での、ゆっくりとしたシットアップ(最後には上体を屈めていくが)をやっている。
インナーマッスルを意識して軸をつくるためのエクササイズとして、一番お勧めできるのは、両足(裸足の方が良いと思う)を並行にぴったりつけ、体をピンと伸ばして頭をずっと上の方に持ち上げる感覚(いわゆる”引き上げ”の感覚)を保ちながらゆっくりと両足の踵を持ち上げ、またゆっくりと降ろしていく方法だ。本来はカーフレイズというふくらはぎの筋肉のためのエクササイズだが、ポイントは両足を揃えること。そして、体の引き上げを維持してゆっくり行うこと。上手くすると、体の芯に筋が通り、そこでバランスがとれているのがわかると思う。このエクササイズは日元倶楽部という会社の方にオーダーメイドのインソールを作っていただいた時に教わった方法だ。
作っていただいたインソールについては、「軸をまとめる」のところで記せると思う。
インナーマッスルのことから外れるのだが...。強調したいのは、首の位置の安定である。頭は地面から一番離れた所にあり、重量も体重の13%くらいあるそうだ。なので、頭がグラグラしていては軸が安定しないだろう。胸鎖乳突筋などの首の筋肉を太らせると首が太く見えてしまい、それは演技の印象を悪くすると思う。なので、首の回りの筋肉(僧帽筋)を鍛えることをスポーツトレーナーからは提案された。軸受けをきちんとしておけば軸も安定するという理屈とのことだ。主にラテラルレイズというダンベルを使ってのエクササイズをしている。他に、やはり通信販売で購入したボディーブレードを愛用しているので、これでも僧帽筋などを鍛える運動をやっている。ボディーブレードは気軽に筋トレができるので、とても重宝している。
あと、腕はフィギュアの動作の際にはやじろべえのようにバランサーの役割をするので、正しい位置に置くことが大切になる。実際には、意識がそこまでいかず不適切な腕の動きためにバランスを損なうことを経験したりする。肩の筋肉である三角筋は腕を上げ続けるのに必要だが、ここを鍛えることで両腕で大きな楕円を保つことが容易になる。フィギュアの動作というと、腕は常に同じ位置にはないという印象を持たれる方も多いかもしれない。でも、自分がトレーニングしていて感じるのは、両腕の位置(特に高さ)が安定していると軸がとりやすいということだ。見た目には忙しく動かしているように見えても、両腕をダランと下げている姿勢はないと思う。常に一定の高さは保っており、しかもその高さが安定していると軸も安定する。逆に、腕の動きの意識が乏しく、変な位置に腕が下がっていると跳べるはずのジャンプも出来ないことがあるし、スピンの軸が外れてしまうこともある。なので、腕を支える肩回りの強化も軸を保つためには大切だと考えるのだ。このエクササイズは、前述のラテラルレイズと、やはりダンベルを使ってのショルダープレスを行っている。
最後になるが...。運動のための軸を作るのに理想的なトレーニングは、クラシックバレエのバーレッスンだと思う。バレエというと、優雅な動きや豊かな表現力というイメージもあるが、その土台となる安定した姿勢の保持がなければ一切が無になってしまう。美味しいケーキの条件に質の良いスポンジが挙げられるようなもので、人を魅了する動作には安定した姿勢の保持が絶対に必要だ。なので、バレエのバーレッスンでは正しい姿勢で軸を保ちつづけ、しかも四肢を適切に動かすためのレッスンを繰り返し行う。手足をどんなに素早く動かしても、体の軸はブレない。そういう身体機能を有することは、フィギュアスケートにも大きなメリットがあると思う。クラブの子供達の多くがバレエのレッスンも受けているようだが、その恩恵は今後現れてくるのではないかと期待している。
以上、思いつくままに記したが、勉強不足であったり表現が適切でなかったりする所に気づくと思うので、随時書き改めていきたいと思う。なお、筋肉には遅筋だけでなく速筋もあるし、それがフィギュアの動きでは重要になることも多々ある。なので、ゆっくりした筋トレだけではパフォーマンスの向上にはつながらないと思う。要求される動作を吟味し、そのためにどんな機能が求められているのかを考えてトレーニングを検討していくことは、非常に重要だと考える。ジャンプにしても、単に下肢の筋トレをするだけでなく、高くまっすぐに跳ぶこと、陸上で跳んで回ってみること、そして氷上でトライしてみることと、様々な練習法を組み合わせると、効果が上がるのではないだろうか?
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